G1-03 中学校国語

元に
論理的表現を学ぶ説明的文章の授業の提案
― 中学校3年間に活用できる言語技術一覧表の作成を通して ―
 
                            邑久郡邑久町立邑久中学校 教諭 村 松   敦    
研究の概要  
 説明的文章を読む観点を,激変する社会に生きて働く言葉の力となる「論理的表現の言語技術」として体系化し,自己表現に生かす授業計画の在り方を探った。まず,学習指導要領における表現,理解及び言語事項の指導内容から,「論理的に書く方法」を整理し,言語技術としてまとめた。次に,教科書教材における指導計画表を作成した。さらに,単元計画の一例を示すことで,論理的表現を学ぶ授業の在り方を提案した。
キーワード 中学校,国語教育,論理的表現,言語技術,説明的文章
 
T はじめに
生徒から「国語の授業は楽しいけれど,勉強の方法が分からない」と言われてきた。
この国語科の学習の分かりにくさを克服するために,「読む(理解の)方法」を学ぶ授業は有効である。主題を象徴的に描く文学的文章では,着目するべき言葉を隠して想像したり,他の言葉と比べたりするといった方法で,読みを深めることができる。しかし,説明的文章は,明快な構成や表現によって論理的に分かりやすく書かれているために,かえって,接続語や指示語に気を付けて段落ごとの内容を整理し,全体の要旨をまとめるといった方法による,形式的な読解の学習に陥りやすいのである。
文章内容の理解を深めるために,ディベートや新聞作成等の表現活動を採り入れると,授業は盛り上がる。しかし,このような表現活動と読解の連携は,内容の関連はあるものの,文章から自分の表現に生きる「方法」を学べていないといった問題がある。
そこで,自己表現に生きる「書く(表現の)方法」を,説明的文章を通して,表現と理解の言語活動の連携を図りながら確かめる授業に改善すれば,国語科の学習の分かりにくさを克服し,確かな「方法」として習得できると考えた。
そのために,中学校3年間で学ぶ「書く方法」を体系化して一覧表に整理し,表現の妥当性を確かめる読みの観点として説明的文章を学ぶ指導計画の在り方を探った。
なお,指導計画と授業の在り方は,第1学年についてのみ行った。
 
U 研究の骨子
1 言語技術とは
言語能力は,言語活動によって身に付けるべきであるが,一連の言語活動を通して学んだことは,普遍的で応用の利く方法とならなければならない。本研究では,普遍的で応用の利く「書く方法」を「言語技術」ととらえた。
説明的文章の研究・実践の多くは,「読む方法」を詳細に解明している。「書く方法」を追究した場合も,表現の型としての『形式』に重点が置かれ,事例の具体性や推論の客観性といった『内容』への視点が薄い。そこで,『内容』『形式』両面から,説明的文章の表現の妥当性を確かめる読みの観点を,言語技術(書く方法)として体系化した。
2 論理的表現とは
目的達成の手段である方法は,目的意識が不可欠である。言語技術は,激変する現代社会への柔軟な対応を目的とする方法であり,今後ますます必要となる。本研究では,「論理的表現」による意思の伝達を言語技術の達成するべき目的であるととらえた。つまり,「論理的表現」の典型である説明的文章から,筆者が駆使している表現の妥当性を確かめる読みの観点を,自分の意思伝達のための「論理的表現」の言語技術として解明することとした。
そこで,論理的表現は説得力のある『内容』と分かりやすい『形式』によってもたらされるととらえる。そして,『内容』は,幹となる意見や考えと,その客観的裏付けとなる具体的な事実や説明からなり,『形式』は,『内容』を分かりやすく伝える上で,妥当性のある述べ方であると定義する。
V 研究の内容
1 論理的表現の言語技術一覧表
表1 言語技術一覧表
  言 語 技 術表   現理   解言語事項



 
事実と意見の区別構   成構  成 
事実の示し方発想・題材  
意見の導き方 ものの見方・考え方 
要約の仕方
 
主題・要旨
 
主題・要旨
内容把握と要約

 

形式 
文の述べ方語句の選択と構文 文・文章
語句の述べ方語句の選択と構文語句の意味・用法語句・語彙・単語
文章の述べ方叙述の仕方表現の仕方文・文章
段落の並べ方構  成構  成 

中学校指導書国語編には,表1の  部分は,密接な連携を図り,自分の表現(書く)に生かせる理解(読み)の指導内容として形式的にならぬように効果的な学習を図るとある。そこで,学習指導要領の指導内容から,論理的表現の言語技術の体系化(表1)を試み,次のように整理した。
○『内容』を支える言語技術
 ・「事実と意見の区別」:表現内容全体を,幹となる意見(主張・考え)と,それを裏付ける事実(具体例・説明)に区別すること        
 ・「事実の示し方」:読み手が事実を思い描きやすいように,適切に具体的な説明をすること
 ・「意見の導き方」:示された事実から客観的に無理なく論を展開すること
 ・「要約の仕方」:表現内容の論理的な構想を簡略にとらえること  
○『形式』を支える言語技術
 ・「文の述べ方」:表現の基本単位となる文を支える主述の関係や修飾被修飾の関係等の整え方
 ・「語句の述べ方」:文と文との関係を論理的にする接続語・指示語,助詞・助動詞等や,内容や文脈にふさわしい多義語・類義語・抽象的な語句等の的確な使い分け
 ・「文章の述べ方」:まとまった段落に一つの内容を述べることや,客観性を高める5W1Hによる記述,頭括式・尾括式といった展開の仕方
 ・「段落の並べ方」:三段構成・四段構成や,演繹法・帰納法といった論理的構成の型
学習指導要領の指導内容は,各学年の発達段階に応じて示されている。したがって,原則として各言語技術は1年間で一通り学習し, 該当学年の指導内容に応じて,繰り返し取り扱うこととする。
2 言語技術の指導計画
中学校第1学年の教科書(光村図書)の説明的文章を採り上げ,言語技術の指導計画を表に整理した。(表2)その際の主な留意点は次の通りである。
 ・1年間で『内容』『形式』各四つの言語技術を一通り学べるように配当し,年間計画に支障を来さぬよう,一つの学習材を5時間程度で取り扱う。
 ・作品分析を行い,その学習材にふさわしい言語技術を抽出し,生徒に分かりやすい言葉で提示する。
 ・一単元の一連の言語活動に,言語能力の関連を図るため,取り扱う言語技術を中心となる言語技術(☆)と関連する言語技術(★)に分けて計画する。
 ・中心となる言語技術を学習する上で,関連させると学習効果の上がるものを,関連する言語技術として採り上げる。
 ・小学校では『形式』関連の学習がよく行われるので,中学校では『内容』を重点的に取り扱うことで,表現の型にはめるのではなく,より個性的な創造力を発揮できる言語技術を習得させる。
 
表2 中学校第1学年―言語技術指導計画表
       学 習 材言 語 技 術「ちょっと立ち止まって」キミも名探偵−三つの絵の謎の巻 「日本人と文字」
Let's 問答の巻
「自然の小さな診断役」
パズルの鉄人の巻
「魚を育てる森」
キミもニュース・キャスターの巻

内容
 
事実と意見の区別☆例(事実)とメッセージ(意見)を区別する  ☆報告(事実)と判断(意見)を区別する
事実の示し方 ★共通点のある具体例を選ぶ☆全体から部分への流れで紹介する 
意見の導き方 ☆問いかけで筋道を作り,考えを導く ★視点を変えて事実をとらえる
要約の仕方☆一目で分かるメモを書く   
 
形式
 
文の述べ方★内容に合った文末で述べる   
語句の述べ方 ★文脈に生きる接続語を選ぶ  
文章の述べ方  ★一段落に一つの内容を述べる★5W1Hで詳しく述べる
段落の並べ方  ★三段構成を生かして述べる 

3 単元計画の例
  言語技術は,学習用語として記憶しても無意味で ある。そこで,生きて働く確かな言葉の力となるよ うに,次の3段階で学習することとし,単元計画を 作成した(表3)。
 ・模索段階:生徒自身が活動を通して,言語技術のイメージをとらえる段階
 ・確認段階:言語技術の効果を,作品を読むことで確かめる段階
 ・活用段階:言語技術を自分の表現に生かす段階
表3 単元計画案「パズルの鉄人の巻」(5時間)
 中心学習材 「自然の小さな診断役」

 言  語  技  術
     
☆ 内容 事実の示し方 : 全体から部分への流れで紹介する
★ 形式 文章の述べ方 : 一段落に一つの内容を述べる
★ 形式 段落の並べ方 : 三段構成を生かして述べる
 学  習  活  動  予 想 さ れ る 反 応     言語技術の学び方と支援の留意点






1 集合写真の中の人物 を,名前を伏せて三つ の文で紹介し合い,「事 実の示し方」のイメー ジをとらえる。

 
【サッカーW杯日本代表中山選手の場合】
〈第1文〉彼は,サッカーW杯の日本代表メ     ンバーです。
〈第2文〉彼は,日本の唯一の得点を挙げた     選手です。
〈第3文〉彼は,ファイトあふれるプレーと     ユニークな人柄で人気者です。
・班ごとに異なる人物を名前を伏せて紹介し,他班はそ の名前を考えて当てることを通して,次のような言語 技術のイメージをとらえさせる。
事実の示し方:読み手が事実を思い描きやすいように        全体から部分への流れで紹介する。
文章の述べ方:一文に一つの内容を整理して書く。
段落の並べ方:三段構成(初め-中-終わり)で述べる。
















 
2 班で「自然の小さな 診断役」の段落構成の 意図を読み取る。
(1) 段落ごとに切り離し て混ぜ合わせたカード 15枚を並べ替える。


(2) 並べ替え結果と理由 をワークシートに整理 する。
 
【ワークシート記入例】
〈初 め〉ダニ全体から代表的3種類(部分)  へと順に紹介し,ダニの世界に引き込む
 【段落1】森に最も多く住む虫であるダニ
 【段落2】3種類のダニ
〈 中 〉中心となるササラダニについて,  考えを展開する
 【段落3】自然の健康診断をするササラダニ
 【段落4】指標生物として便利なダニ
〈終わり〉ダニを通して訴えたいこと(結論)  を述べる
 【段落5】自然と人間の共生
・15枚を5段落に,そして3段落に整理する過程を説明 することで,言語技術の効果を作品で確かめる。
事実の示し方:【段落1】から【段落3】にかけて,ダ        ニ全体から中心のササラダニへと,読者        が事実を思い描きやすく紹介している。
文章の述べ方:五つの小見出しで整理できる意味段落        で,段落ごとの内容をまとめている。
段落の並べ方:分かりやすく論を展開する三段構成の        各段の働きを生かして述べている。
〈初 め〉話題の提示―作品全体の読みの構えを作る。
〈 中 〉具体例や論証―中心となる論を展開する。
〈終わり〉結  論―要約し,考えを述べる。
3 班を組み替え,段落 構成の意図を確かめる。
(1) 考えを交換する。
(2) 教科書を通読し,筆 者の意図を確認する。
・前の班と違って,【段落4】は,〈終わり〉 にまとめた方がよいと思う。
・【段落4】は,〈中〉をまとめているので, この班と同じで〈中〉に入れた方がよい。
・〈初め〉の部分は,無くても分かる。
・元の班には責任者1名を残し,後は他の班に分かれて 新班を作り,責任者の説明に対して意見交換を行うこ とで,一人一人に文章との交流をしっかり保障したい。
・〈初め〉に,害虫のイメージだけで意外に無知なダニの 世界に引き込む工夫があることに気付かせたい。






4 自分の名前の由来の 紹介文を書く。


 
【構想の例】
〈初 め〉私の名前は,○△と書きます。
〈 中 〉○という字には,〜という願いが     込められています。△という字に     は,・・・・。
〈終わり〉願い通りに成長していませんが,     この名前を大切にしたいです。
・学習した言語技術を活用させる。
☆事実の示し方:文字遣い全部から各文字へと紹介する。
★文章の述べ方:一段落に一つの内容を述べる。
段落の並べ方:〈初め〉に読みの構えを作り,〈終わり〉        に考えを,三段構成を生かして述べる。
5 紹介文を交換して, 評価し合う。 ・学習した言語技術に照らして,自己・相互評価をする。
 

まず,【模索段階】では,写真の紹介文を書く。いくつかの異なる集合写真を用意し,その内の一人を固有名詞を伏せて他班に紹介し,当てさせるゲーム形式で行う。三つの文で紹介するためには,一文ごとに述べる内容を吟味しなくてはならないので,次のような言語技術が体験的に導ける。まず,読み手が話題を思い描きやすいように全体から中心となる部分への流れで紹介する。つまり,「事実の示し方」を中心となる言語技術としてとらえる。また,「読みの構えを作るために〈初め〉に題材の全体像を簡潔に述べ,〈中〉で中心となる部分を詳しく述べ,〈終わり〉で題材への思いを述べてまとめる」といった,三段構成の効果「段落の並べ方」と一段落(文)に一つの内容を述べる「文章の述べ方」を関連する言語技術としてとらえるのである。
次に,【確認段階】では,前時の言語技術の効果を確かめるため,教科書教材「自然の小さな診断役」を形式段落ごとに切り離した15枚のカードの並べ方を考えさせる。一段落に一つの内容を述べる「文章の述べ方」によって,小見出しを付けることで,同じ内容を表す意味段落を大筋で4,5段落に比較的容易にまとめることができる。そして,全体から部分の流れで紹介する「事実の示し方」によって,ダニ全体から話題の中心となるササラダニへの展開,三段構成を生かして述べる「段落の並べ方」によって,〈初め〉〈中〉〈終わり〉それぞれの働きを考えて,意味段落の順序が整理される。 
さらに,【活用段階】では,言語技術が一人一人の自分の表現に生かせるように,自分の名前の由来の紹介文を書く。目標を決めてから書かせることで,既習の言語技術を活用した作文を意識させる。完成作品は,既習の言語技術を評価の観点にして,自己評価や相互評価を行う。他の人にも読んでもらうことにすれば,言語技術の効果を考えながら書く意識がさらに高まるであろう。
 
W おわりに
確かな普遍的で応用の利く言語技術を明らかにしようとする先行研究・実践の多くは,言語技術が生徒が使いこなすにはあまりに詳細多岐に渡っていて複雑すぎたり,「読む方法」か「書く方法」のどちらかに偏るもので,学習指導要領の指導内容との関連があいまいなものであったりした。
説明的文章を読む観点を,論理的表現の言語技術として,学習指導要領の指導内容から体系化した本研究は,次のような成果が得られると考えられる。
・論理的表現を説明的文章の言語技術ととらえることによって,内容を読解してまとめる形式的な授業から,「読むこと(理解)」で学んだことが「書くこと (表現)」に生きる方法となる授業になる。
・学習指導要領の指導内容から言語技術一覧表を作成することで,表現と理解の言語活動の連携を図った 授業の指導内容の体系が明らかになる。
・言語技術一覧表の作成によって,学習材の入れ替えがあっても,教科書教材を核にした授業を通して,3年間の学習の見通しや重点化がしやすくなる。
・論理的表現の言語技術を模索・確認・活用の各段階を踏んで学習することで,一連の学習活動で同じ学習目標を追究しながら確かな言語能力を身に付けられる。
 一方,次のような課題も見えてきた。
・文学的文章における言語技術一覧表の作成の必要性
・中心となる言語技術と関連する言語技術に位置付ける言語技術間の関連の妥当性の実証
・学習活動の生徒の実態との適合性の実証
 ここ数年来,自分の担当する国語科が「『何を』学ぶべき教科なのか」を問い続けてきた。今後は,言語技術一覧表の成果を授業によって検証し,修正を加えていかなければならないことは言うまでもない。おぼろげながら進むべき道が見えてはきたものの,問いの答えはライフワークとなりそうである。
 
○主な参考文献
1) 国語教育増刊(1996):戦後国語教育研究の到達点と改革課題,明治図書
2) 三森ゆりか(1996):言語技術教育の体系と指導内容,明治図書
3) 安藤修平・相澤秀夫編(1997):「新しい読み方指導」の開発と展開,明治図書
4) 市毛勝雄(1997):作文の授業改革論,明治図書
5) 井上尚美(1998):思考力育成への方略,明治図書
6) 井上裕一(1998):説明的文章で何を教えるか,明治図書
7) 市毛勝雄(1998):言語技術教育としての国語科,明治図書
8) 轡田隆史(1998):うまい!と言われる文章の技術,三笠書房